機能性繊維
ヒートテックはなぜ暖かい?
寒い季節にはもはや必需品とまでなってきているヒートテック。なぜこの素材は他の衣類と比べて暖かいのでしょうか。他の衣類と比べて特別分厚い生地を使っているというわけでもなく、むしろ薄いと言えるほどのものなのに暖かい。
ユニクロと東レが生み出したこの驚異の素材について今回は取り上げていきます。
ヒートテックの仕組み
そもそもなぜ、この素材は暖かいのでしょう。その秘密はこの繊維素材の仕組みにあります。もともとの原理を突き詰めると他の衣類と共通しています。例えば、羊毛のセーターがありますが、なぜ羊毛のセーターは木綿のものよりも暖かさを感じるのでしょうか
これは「吸湿発熱」という仕組みを利用しているからなのです。
人体はアイドリング状態、何もしていない状態でも毎日、数百mlの水分を放出しています。よく、人が一日に活動するには数リットルの水分が必要だと言われますが、ただ横になっているだけでも人は水分を消費しているわけです。
この汗を吸収して発熱しているのが「吸湿発熱」の仕組みです。
ただ、そもそも「汗を吸収すると発熱するってどういう原理?」と釈然としないと思います。身近な例を挙げてみますと、、暑い夏、涼をとるために水をまいたことはないでしょうか?
そう、打ち水です。あれは水が蒸発するときに周りの熱を奪う(気化熱)ことで気温が下がることを期待しています。そして、吸湿発熱はこの逆の作用なのです。
つまり、水蒸気が水に変わるときに周りに熱を生む(凝縮熱)を利用して温感を発生させているのです。
そして、人は四六時中、体内の熱を逃す(熱放散)ために水蒸気としての汗をかいています。この水蒸気が吸収され繊維内で水となるとき、あたたかくなっているのです。
羊毛のセーターなどはとりわけこの現象が起こりやすい衣類なので、数百年前から防寒衣類として人に利用されてきたわけですね。
この原理に着目してさらにパワーアップさせたのがヒートテックという素材です。
水分をより多く吸える素材というのは一般的にはそれなりに厚みがありかつお手入れが面倒であるなど普段使いには少し難がありました。そこで、より薄くより暖かい素材をとユニクロと東レが鋭意開発努力を重ねた結果、誕生したのがこの素材です。
水分をよりたくさん吸収できる素材
この原理は例えるなら、手編みの羊毛セーターをさらに細かな糸で編みこんだようなものです。よりたくさんの水分を吸収できるようにするにはより多くの繊維が必要となります。
そこで、極細でかつ水分を貯蔵できる量が多い化学繊維を開発し、それを他の化学繊維と組み合わせることでこの素材は作られました。
ただ、それだけでは衣類に水気が残ってしまいます。スポンジで吸える水の量に限界があるように、衣類の繊維にも貯蔵できる水の量には限界があるのです。そこで、ヒートテックは効率的に水分を衣類外に逃がす仕組みも採用されています。
暖かさだけを衣類の内側、すなわち体にとどめておき、水分だけを外に逃がす。この仕組みによってこの素材はいつまでも暖かさを保てます。
さまざまな化学繊維のもつ原理を利用
このような複数の仕組みを成立させるために、ヒートテックにはいくつかの種類の化学繊維が採用されています。レーヨンやマイクロアクリルと呼ばれる化学繊維です。
このなかでも特にレーヨンは言うなれば湿気、すなわち水分を吸着するのに特化した化学繊維で、マイクロアクリルはその名前から連想するとおり細かな繊維をもつ化学繊維です。このアクリルは保湿という機能に特化しています。
他に、ポリウレタンやポリエステルがこの素材には利用されています。
化学繊維と聞くと、何やら冷たい印象を抱く方も多いかもしれませんが、ヒートテックの原理は古くから衣類全般が持っていたものを、さらに向上させたに過ぎません。言うなれば、「防寒衣類の正当進化」とも呼べる素材がヒートテックです。