ボスの今よりも もっとよく
~「野生の威厳」~
野生の威厳
スフィンクスは問いかけて人を試したが
このライオンは人に答え続ける存在だ
私たちの心はどんな時代にも
聖俗ごたまぜの問いかけに満ちている
歴史に翻弄される私たちの前で
時の流れに洗われながらも
過酷な天災人災にも恬然として
静かに王の威厳を保ち続け
ブロンズの肌の冷たさの奥に
ひそかに脈打つ心臓を隠している
手で触れることはできないが
心でそれに触れることができる
人智を超えたこの野生の存在は
無言でただそこにとどまることで
どんな言論にもどんな行動にもまして
勇気と自由の大切さを人に告げる
谷川俊太郎
日本橋三越本店の玄関に向かって右手に座る台座には、本店のルネッサンス式の新館を竣工したとき、イギリスから運ばれてきた2頭のライオン像が据え置かれています。
それから100年に当たる2014年、詩人の谷川俊太郎さんが記念にと書き下ろした「野生の威厳」という詩が刻まれています。
この2頭のライオン像は日本橋三越本店の守護神であるわけですが、このライオンが辿ってきた道筋を知れば知るほど、詩の最後の「勇気と自由の大切さを人に告げる」という言葉が、まさにこのライオンのミッションというものを、ストレートに象徴しているように感じます。
このライオン像は前足から尾までが269センチ、頭までの高さが120センチあり、株式会社三越呉服店の専務取締役であった日々翁助(ひび おうすけ)という人が、視察旅行で英国を回ってイギリスに来たとき、ロンドンのネルソン提督像の下に並ぶライオン像を見て、「これこそ、新築の三越本店を守護するにふさわしい」とひらめきました。
彼はすぐに英国王立芸術院メンバーで、ヴィクトリア朝期から有名だった彫刻家レオナード・メリフィールドと鋳造家のエー・ビー・バルトンに発注し、3年の歳月をかけて完成して、このライオン像は日本に運ばれてきたものです。
この日々翁助は、人の何倍もライオンを愛したようで、そのことは愛息に「雷音(らいおん)」と名づけたことからもうかがえます。
さて、イギリスから来た威厳に満ちたライオン像2頭は、三越本店の守護神として本店の玄関前に置かれ華やかなスタートを切ったわけですが、その後、二つの大きな時代の流れに飲み込まれていきます。
その一つが、1923年(大正12年)9月1日の関東大震災です。この大震災により、東京都と神奈川を中心に全壊した建物が13万余棟、全焼が21万2000余棟。被害者は190万人にのぼり、14万人余が死亡あるいは行方不明になりました。当然、日本橋地区一帯そして三越全館も例外なく、熱風と瓦礫と煤にまみれながらも、奇跡的にこのライオン像は大きな傷を受けませんでした。
そして奇跡と思えた体験はもう一度やってきます。それは第二次世界大戦、国を挙げて総力戦体制が敷かれ、金属類の供出が始まったことです。三越も、国家総動員法の金属回収令公布に従い、ライオン像が金属供出対象となり、溶岩路の中で鍋や電線クズなどと一緒に溶解される運命になったのです。
しかし、また奇跡が起きました。供出金属の受け入れ先だった海軍の担当者たちは、ライオン像を原宿の東郷神社境内の片隅にあった防空壕の中に置くことを決め、溶解するのを先延ばしにしました。
東郷神社は、日露戦争における日本海海戦の指揮官にして、「東洋のネルソン提督」と称された東郷平八郎元帥を祀った神社です。この措置は、明らかにロンドンのネルソン提督像の下に並ぶライオン像と三越のライオン像の来歴を知った上での粋な計らいでした。
ただ、時代の流れによって誰もが溶解されたものと思っていたこのライオン像は、終戦の翌年「ライオン像は無事らしい」との噂を頼りに東郷神社を訪れた三越社員が発見し、やっと元の居場所である日本橋本店正面入口に再び設置されることになったのです。
その後、三越の各支店(銀座、新宿、池袋など)に、1972年(昭和47年)、創業300年記念として、ライオン像の複製が作られ、それぞれの正面玄関に置かれ、「三越といえばライオン像」と人々に知られるようになっていきました。
ちなみに、三越日本橋本店のライオン像の前足はツルツルに光輝いていますが、それは度重なる災難を奇跡的に回避したご利益にあやかりたいと、多くの人たちがライオン像の前足や背中を願いを込めて撫でていくからです。
また、大正時代から「三越のライオン像に、誰にも見つからないようにして跨ると試験に合格する」との都市伝説があって、中学生や高校生に交じって社会人らしき人までもが、ライオン像に跨ったのですから縁起物としても、このライオン像はとても人気があったのです。
また、日本で唯一、民間のデパートを訪れたイギリスのウィリアム皇太子と故ダイアナ妃は、このライオン像の前足を愛おしそうにさわりながら、「君は70年僕が来るのを待ってくれていたんだね」と、とても感慨深そうに喜ばれたとか。それはこのライオン像のルーツをウィリアム皇太子は分かっていらっしゃったのでしょう。
ライオン像が三越日本橋本店の正面入口に置かれて100年余、戦後の据え置きから数えても70年以上が経過しています。
今度、三越日本橋本店にお越しの際は、是非、このような軌跡の上に今のライオン像がここにある、ということをご理解していただいた上で静かに眺めていただくと、「あ~そうだったのかぁ~」と、この2頭のライオン像が実に愛しく感じられると思いますよ。(続く)
参考書籍:「ここに日本がある三越日本橋本店に見るもてなしの文化」著:土屋晴仁
●「三越日本橋本店ウォータークリーニング」
本館二階 カスタマーサービス内
●「歴史ツアーのお知らせ」毎月第2土曜日
午前11時30分・午後2時30分開催
・所要時間:約70分。参加費無料。
お申し込みは03-3241-3311(大代表)
『女将の近藤紀代子さんが楽しくご案内して下さいます』
そもそも、クリーニング師になる切っ掛けは、中学時代の同級生の父親が、若い時に東京のクリーニング店で修業したことがあり、中学を卒業するときに、その店を紹介してもらって、山梨から一人、電車で上京しました。
東京の従業員15名ぐらいのクリーニング店に入って5年間は住み込み奉公で、小遣い程度の給料を頂きながら仕事を教わり、5年が過ぎると、1年間のお礼奉公をしてから、最初の店を出て色々なクリーニング店を渡り歩きました。
当時の職人さんはこれが普通で、一つのところに1カ月から3カ月居ては、次の店に移るということを繰り返し、条件のいいところを求めて、全国を回っている人も数多くいました。
私も、東京を出て大阪を目指し、西に向かいましたが、途中、静岡で入った小さな家族的なクリーニング店の社長さんの人柄や港町の居心地がよく3年も居続けたこともあります。
当時の職人の時給は900円程度で、今のお金に換算すると、4倍ぐらいの4,000円程度で、かなりの高給でした。
当時、私はまだ26歳。15歳のときから転々としたお店が7~8軒。クリーニング業界に入って早10年が経過しようとしていました。
『月に一度の感謝の参拝』 記:山田法子
昨日までの夏日とは打って変ってひんやりと肌寒い朝。
今日は月に一度の麻賀多(まがた)神社・天日津久(あまのひつく)神社参拝の日です。
こういう日の朝は特に家事をすべて済ませ出掛けるという習慣が私にはあります。
いつもより早起きをして、当たり前のように家事を済ませて、早朝4時10分、さあ!いつものように出発です。
出発して2~3分の所にある峠の坂道、その途中に若くて美しい鹿がこちらを向いて立っていた。
「あっ鹿だ」 一瞬「待っていたよ 行ってらっしゃい」と言われたような気がして「行って参ります」と呟く。同時に、鹿島神宮・春日大社という文字が脳裏に浮かぶ。
坂道を下り、すぐにあるコンビニでいつものようにホットコーヒーを買い君津インターから館山道に入る。
そこに現れたのは、朝日に染められた東の空にたなびく白い雲、ただ「美しい」とため息が出る。
出発して1時間弱で成田の麻賀多神社に到着。そこは冷たく透き通った荒い風が、漂う穢(けが)れを飲み込んで去った後と思われるほど麻賀多神社の場は、赤色も緑色も金色もすべてがいつもよりずっとずっと鮮やかな光を放ちながら私たちを待っていてくれた。
その少し奥に鎮座まします「大権現社」。そこから見上げる天空には自然の力が描いた絵画が存在している。そこが「天につながる道」と言われている事にも、疑いなく頷けるほどのエネルギーをいつも放っている。
居るはずのない鹿に出会い、朝日に照らされたたなびく白い雲、透き通った鮮やかな場、壮大無限な絵画。
どれも、今、この瞬間でしか出会えない「いのち」の連鎖です。
嗚呼、今日でよかった。
「ナチュラルクローゼットルームのすすめ」
大切なレザーと衣類は「カビ」「虫食い」「色ヤケ」対策を!!
梅雨の6月から8月にかけては、高い温度と湿度が、大切な衣類にカビや虫食い、黄ばみなどを発生させます。
ですから、カビや虫食いを発生させないような収納方法は、とても大切です。カビ胞子は何処にでもあり、栄養・温度・湿度の条件がそろえば発生しやすくなります。
●カビの生えやすいもの
・レザーウェア、バッグ、靴などのレザー製品全般
・汚れが付いたまま保管してある衣類。
特に 綿コートは目立ちやすいです。
衣類をカビや虫食い、黄ばみから守るためには、キレイに洗濯したり、ウォータークリーニングしてから収納するのがベストです。カビの栄養である汚れや汗を取り除くということです。
カビを生やさないためには、汚れを落として、湿度の少ない涼しいところで保管するのが一番ですが、ご家庭では、梅雨の時期などは、どうしても高温多湿になってカビが繁殖してしまいます。
お客様の大切なレザーアイテムや衣類はウォータークリーニングで汚れを落とし、衣類を最適な温度と湿度で管理し、カビや虫食いや遮光して色ヤケも防ぐ「ナチュラルクローゼットルーム」で次のシーズンまで大切にお預かりしています。
●防虫加工(敏感肌の方にも安心)
クリーニングに出されるウールのコートやニットのセーターなどが、気づかないうちに虫に喰われているものがよくあります。完全に穴があいているものだけでなく、繊維の表面を虫が喰って凹んだ状態のものも多く、クリーニングすることで細くなった繊維が切れて穴があきます。
ウールをはじめ、カシミヤ、アンゴラ、モヘアなどの柔らかい繊維ほど虫が好んで食べますが、汚れが付いているとどんな繊維でも食べます。
虫食いを防ぐには、汚れを落とし、防虫剤を使いますが、家庭では防虫剤の効き目が不十分で、虫に食われてしまうこともよくあります。市販の防虫剤は密閉した空間で使用してこそ、効果を発揮することを認識しておいて下さい。