「天然皮革素材」
皮から革へ
動物の生の「皮」をバッグや靴などの素材として使える「革」にするには、腐ったり固くなったりしないように「鞣す」という加工をします。その鞣す加工を行う専門の業者が「タンナー(tanner)」です。“tanner”は、英語で「鞣す・日焼けさせる」を意味する“tan”が元の言葉。他に、革の製造工場を「タナリー(tannery)」、革を鞣すことを「タンニング(tanning)」と言います。
タンナーは世界中にありますが、特に有名なのはイギリス、フランス、イタリアです。特にイタリアはタンナーが多く、トスカーナ地方だけでも数千以上存在しています。なお、日本にも技術の高いタンナーは多く、兵庫県の姫路市周辺が特に有名。またブタ革のタンナーは、東京の墨田区に集中しており、世界でも最高級の品質を誇っています。
具体的になめしとは、そのままでは腐敗したり、水分が抜け硬くなってしまう「皮」のコラーゲン繊維になめし剤を結合させ、安定した素材「革」に変化させること。そうすることで、劣化を抑えながら、素材としての柔らかさや強度が生まれる。現在、このなめし剤は、植物由来成分である「タンニン」と、塩基性硫酸「クロム」が主流となっているが、古くは燻したり、塩や油を使った方法もあった。
【原皮】
動物から採取した皮膚を、いつでも鞣しの工程に入れるよう塩漬けにし、保存状態にしたものが「原皮(げんぴ)」または「原料皮(げんりょうひ)」です。英語圏では、牛や豚など大型動物の原皮を“hide(ハイド)”、鹿や羊、爬虫(はちゅう)類などの中型~小型の動物から採ったものを“skin(スキン)” と呼んで明確に区別しています。
食肉用に処分された動物の皮膚は脂肪や肉片などが残っているので、タンナーに運び込む時までに腐ってしまうおそれがあります。そこで、皮膚を完全に塩漬けにし、ある程度保存の効く状態にしてからタンナーに卸します。そのため実際に鞣す際には、塩を抜く工程が必要となります。
【タンニン鞣し】
タンニン」は、植物の樹皮や幹、葉や実などに含まれるポリフェノールの一種。「渋」とも呼ばれ、皮を鞣す作用があるので、紀元前より世界中で革づくりに使われてきました。革の鞣しにはミモザやチェストナット、ケブラチョなどの樹木から採れるものを主に使用しますが、タンニンの種類によってできる革の性質が異なるのでブレンドして使います。
タンニンで鞣した革は線維が引き締まって堅く、とても丈夫。革らしい自然な風合いで、使うほど味わいが出てくるのが人気ですが、鞣すのに時間と手間がかかるため、現在ではクロム鞣しが主流です。しかし、近年は環境に優しい製法であることが再評価され、その価値が見直されています。
【クロム鞣し】
「クロム鞣し」とは、クロムという金属の化合物で革を鞣す製法。19世紀のドイツでその鞣し作用の原理が発見され、20世紀までには現代の製法の基礎となった鞣し技術が確立しました。伝統的なタンニン鞣しに比べて低コストで仕上がりが早いため、現在世界で流通している革の多くが、この製法を施されたものになっています。
クロム鞣しでつくられた革は、タンニン鞣しの革と比べて軽く、柔軟で弾力性があります。また熱に強く、染色した際の発色が良いという優れた特長も。そのため表現力が格段に増し、革製品のデザイン性・汎用性がぐんと向上しました。またコストの低下により、高級品であった革製品がより一般的なものになった点も重要です。
動物の皮は鞣して「革」にする以外に、古くから接着剤をつくることにも使われました。それが「膠(にかわ)」と呼ばれるものです。これは牛などの動物の皮に水を加えて煮込み、それをろ過して乾燥させたもので、ゼラチンが主成分。5,000年以上前から利用されていたようで、ツタンカーメン王の副葬品の家具にも使われていました。日本には7世紀初め頃に大陸から伝わったようです。
粉末膠(洋膠)
膠(にかわ)は木材を極めて強力に接着するため、家具や武具の製造に使用されました。また蒸気を当てるときれいに剥がれるため、バイオリンなど補修や調整の多い木製楽器の製作に今でも重宝されています。一方で、中国や日本では墨の、欧米では絵の具の練り材にも使われ、ウサギの皮が最高級品とされました。なお日本での膠(にかわ)の製造は、革の製造と同じく姫路市に集中しています。