「ダウン色修正後の苦情原因」1/6(火)
うちの会社には国家資格者の繊維製品品質管理士(TES)や、クリーニ
ング師が大勢います。だからと言って勉強や研鑚を怠ると、基本的な事
が疎かになってしまうものです。
ですから、2015年を迎えてクリーニングや繊維の基本からもう一度改めて
学び直し、全員が共通認識を持って「受付」から「洗い」、「前処理」、「シミ
抜き」、「浴中処理」、「色修正」、「ケア」、「仕上げ」、「出荷」までを行なお
うということで、火曜日と金曜日の週2回、早朝5時から6時30分のラジオ
体操までの1時間半、「クリーニングと繊維の勉強会」を実施することにし
ました。
1月6日(火)の今日がその1回目です。今回のテーマは「お客様に対しての
ダウンの色修正に関するクリーニング処理説明について」です。
一層寒さが身に沁みるこの季節、色々な場面で着られて一番ありがたいの
がダウンジャンバーやダウンコートです。このダウンについてお客様からお
預かり時に、どのようなクリーニング処理説明をしているのか?が中心とな
っての今回の勉強会です。
ところで、このダウン、このごろ特に依頼が多いのが、「首まわりや肩、袖な
どの色が変わってしまったものを汚れ落としや色修正で元の状態に直して
欲しい」というものです。こういった内容の依頼件数は月に10枚は下りませ
ん。
この依頼に応えて汚れ落としと変色を修正し、「着れなくなったと思ったダウ
ンがまた着れるようになった。」と、喜んでいただくことが多いのですが、期
待度が高い分だけ、稀に、仕上がりについての不満の声をいただくこともあ
ります。
こちらとしてはかなり高度な技術で、よい出来上がりで納めたつもりなのに
〜と驚くのですが・・・、この場合、お客様と我々の仕上がりのイメージに大
きな差が出来ているのです。また、事前のより具体的なクリーニング処理
説明がなされていなかった、というケースもその原因としては大きいのです。
その理由についてしばらくお話しましょう。
ダウンの色が変わってしまう素材はナイロンのものがほとんどですが、綿
やポリエステルのものもあります。変色の一番の原因は太陽光や蛍光灯
の紫外線によるもので、汗や摩擦なども変色の原因になります。
一番多い変色のパターンは、デュベティカのベージュのダウンが所どころ
緑っぽくカーキ色に変色しているケースで、中には茶色や黒いダウンの変
色もあります。この変色を直すには生地を染色する必要があります。
ナイロンは元々は酸性染料で染められていますが、染料を定着させるに
は煮込んだり蒸したりして温度をかける必要があり、製品になったものに
はそのようなことはできません。
そのためナイロン生地の変色を修正するには、染料ではなく、顔料を使い
ます。顔料は色素を樹脂によって繊維に付着させるものですから、繊維を
選ばず染色できますが、樹脂はいわば接着剤ですから、色を塗った部分
はどうしても生地が硬くなります。
そのため、ダウンのような柔らかいナイロン生地の色修正は、生地の風
合いが変わり過ぎるため最近まで出来ませんでした。しかし松井化学さん
で近年開発された、風合い変化の小さい柔らかい樹脂を使うことでこの色
修正が可能になりました。それからです。ドッとダウンの色修正依頼が全
国から送られてくるようになりましたのは・・。
但し、色は完全に元に戻るわけではなく、変色してムラになったところが、
目立ちにくくなって着れる状態になるということです。生地の色は、元々
様々な色の染料を混ぜ合わせて染められていますが、紫外線などでそ
の中のいくつかの色が消えることで変色が起こります。
色修正は、この消えた色を生地に足してやることで元の色に近づけます。
従って、その部分の変色の状態に合わせて、どんな色が消えているかを
考えながら、何度も何度も塗り重ねて色を合わせていくのです。これは実
に手間がかかりますし、経験と感性がものをいいます。
ですから、激しく変色している部分や、色ムラの強い部分はどうしても少し
ムラ感が残りますし、キルティングのステッチ部分のように凹凸のある部
分は、中の方まで完全に色を付けることは難しいので、よく見ると色の付
かない部分もあるのです。
こういう細かいところまで完全に修正するのは現状では無理があります
が、そこまでは気になさらないのであれば、変色が激しくてとても着れな
いダウンが、クリーニング料金プラス1万5000円弱の色修正代金で、ま
た着れるようになるのは価値があると思いますよ、絶対に。
ただ、色修正を受け付ける時によく説明をしておかないと、お客様は新品
と同じようになると思われていることもありトラブルになりかねません。
ですから、色ムラが残ることと、ステッチ部分などに色が入らない部分があ
ること、また、次のような、色修正してから後のことについても、しっかりとし
た事前説明が必要になるのです。
色修正すると、変色の程度によっても仕上がりの状態は違いますが、変色は
かなり目立たなくなります。
ただ、色を塗ってない所は元の生地のままですから、これまでと同じように変
色する可能性はあります。
ですから、出来るだけそうならないように、変色の原因となる紫外線や生地の
汚れが無い状態でダウンを保管されること、このことを納品時にはお客様にお
伝えしておく必要があるのです。
また、顔料を塗った部分は、薬品や溶剤が付いたり、強い摩擦、高い温度など
で剥がれる可能性もあります。そして、色修正したところは、次回のクリーニン
グで通常の洗いで取れるという事はありませんが、あまり強い洗いを行ったり、
シミが付いてそこをしみ抜きすると顔料も取れるということもあります。
実際にうちで色修正したダウンの若干の色ムラを、汚れと勘違いしてキツイ溶
剤でシミ抜きを行って表面がキズになってしまったケースもありますので、次回
からのクリーニングは色修正で復元したお店でクリーニングを依頼された方が
お客様のデーターもあり安全です。
そして、最後に、仕上がり品を納める際には、受け付けてからの時間が2箇月
程度経っていますから、受け付けの時の事をお忘れのお客様も多いです。
ダウンの仕上がり状況に合わせて、もう一度、色ムラや色が付かない部分のこ
とと、これ以降のお取扱いについて確認をしておくと納品後の行き違いを防いで
仕上がりを喜んでいただくことができます。
今日はモノを見ながらそういう話と質疑応答の勉強会でした。ありのままをお客
様に最初に伝えておかないと、いくら色修正がよく出来ていても、とんでもない
苦情をいだくことになりかねません。やはり事前の情報はとっても大切ですからね。
クリーニングを受付するときの事前説明っていかに必要で大切なのか、こんなこと
とからもよくよくご理解いただけると思います。だからこそ、しっかり勉強しておき
ましょう。
明日はもう一度「ダウンとレザーの撥水加工」についてのお勉強です。
今日は僕のお誕生日お祝いモードより一転して、みんな真剣で繊細な
お仕事モードです。本年も頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。
生かしていただいて ありがとうございます。
ング師が大勢います。だからと言って勉強や研鑚を怠ると、基本的な事
が疎かになってしまうものです。
ですから、2015年を迎えてクリーニングや繊維の基本からもう一度改めて
学び直し、全員が共通認識を持って「受付」から「洗い」、「前処理」、「シミ
抜き」、「浴中処理」、「色修正」、「ケア」、「仕上げ」、「出荷」までを行なお
うということで、火曜日と金曜日の週2回、早朝5時から6時30分のラジオ
体操までの1時間半、「クリーニングと繊維の勉強会」を実施することにし
ました。
1月6日(火)の今日がその1回目です。今回のテーマは「お客様に対しての
ダウンの色修正に関するクリーニング処理説明について」です。
一層寒さが身に沁みるこの季節、色々な場面で着られて一番ありがたいの
がダウンジャンバーやダウンコートです。このダウンについてお客様からお
預かり時に、どのようなクリーニング処理説明をしているのか?が中心とな
っての今回の勉強会です。
ところで、このダウン、このごろ特に依頼が多いのが、「首まわりや肩、袖な
どの色が変わってしまったものを汚れ落としや色修正で元の状態に直して
欲しい」というものです。こういった内容の依頼件数は月に10枚は下りませ
ん。
この依頼に応えて汚れ落としと変色を修正し、「着れなくなったと思ったダウ
ンがまた着れるようになった。」と、喜んでいただくことが多いのですが、期
待度が高い分だけ、稀に、仕上がりについての不満の声をいただくこともあ
ります。
こちらとしてはかなり高度な技術で、よい出来上がりで納めたつもりなのに
〜と驚くのですが・・・、この場合、お客様と我々の仕上がりのイメージに大
きな差が出来ているのです。また、事前のより具体的なクリーニング処理
説明がなされていなかった、というケースもその原因としては大きいのです。
その理由についてしばらくお話しましょう。
ダウンの色が変わってしまう素材はナイロンのものがほとんどですが、綿
やポリエステルのものもあります。変色の一番の原因は太陽光や蛍光灯
の紫外線によるもので、汗や摩擦なども変色の原因になります。
一番多い変色のパターンは、デュベティカのベージュのダウンが所どころ
緑っぽくカーキ色に変色しているケースで、中には茶色や黒いダウンの変
色もあります。この変色を直すには生地を染色する必要があります。
ナイロンは元々は酸性染料で染められていますが、染料を定着させるに
は煮込んだり蒸したりして温度をかける必要があり、製品になったものに
はそのようなことはできません。
そのためナイロン生地の変色を修正するには、染料ではなく、顔料を使い
ます。顔料は色素を樹脂によって繊維に付着させるものですから、繊維を
選ばず染色できますが、樹脂はいわば接着剤ですから、色を塗った部分
はどうしても生地が硬くなります。
そのため、ダウンのような柔らかいナイロン生地の色修正は、生地の風
合いが変わり過ぎるため最近まで出来ませんでした。しかし松井化学さん
で近年開発された、風合い変化の小さい柔らかい樹脂を使うことでこの色
修正が可能になりました。それからです。ドッとダウンの色修正依頼が全
国から送られてくるようになりましたのは・・。
但し、色は完全に元に戻るわけではなく、変色してムラになったところが、
目立ちにくくなって着れる状態になるということです。生地の色は、元々
様々な色の染料を混ぜ合わせて染められていますが、紫外線などでそ
の中のいくつかの色が消えることで変色が起こります。
色修正は、この消えた色を生地に足してやることで元の色に近づけます。
従って、その部分の変色の状態に合わせて、どんな色が消えているかを
考えながら、何度も何度も塗り重ねて色を合わせていくのです。これは実
に手間がかかりますし、経験と感性がものをいいます。
ですから、激しく変色している部分や、色ムラの強い部分はどうしても少し
ムラ感が残りますし、キルティングのステッチ部分のように凹凸のある部
分は、中の方まで完全に色を付けることは難しいので、よく見ると色の付
かない部分もあるのです。
こういう細かいところまで完全に修正するのは現状では無理があります
が、そこまでは気になさらないのであれば、変色が激しくてとても着れな
いダウンが、クリーニング料金プラス1万5000円弱の色修正代金で、ま
た着れるようになるのは価値があると思いますよ、絶対に。
ただ、色修正を受け付ける時によく説明をしておかないと、お客様は新品
と同じようになると思われていることもありトラブルになりかねません。
ですから、色ムラが残ることと、ステッチ部分などに色が入らない部分があ
ること、また、次のような、色修正してから後のことについても、しっかりとし
た事前説明が必要になるのです。
色修正すると、変色の程度によっても仕上がりの状態は違いますが、変色は
かなり目立たなくなります。
ただ、色を塗ってない所は元の生地のままですから、これまでと同じように変
色する可能性はあります。
ですから、出来るだけそうならないように、変色の原因となる紫外線や生地の
汚れが無い状態でダウンを保管されること、このことを納品時にはお客様にお
伝えしておく必要があるのです。
また、顔料を塗った部分は、薬品や溶剤が付いたり、強い摩擦、高い温度など
で剥がれる可能性もあります。そして、色修正したところは、次回のクリーニン
グで通常の洗いで取れるという事はありませんが、あまり強い洗いを行ったり、
シミが付いてそこをしみ抜きすると顔料も取れるということもあります。
実際にうちで色修正したダウンの若干の色ムラを、汚れと勘違いしてキツイ溶
剤でシミ抜きを行って表面がキズになってしまったケースもありますので、次回
からのクリーニングは色修正で復元したお店でクリーニングを依頼された方が
お客様のデーターもあり安全です。
そして、最後に、仕上がり品を納める際には、受け付けてからの時間が2箇月
程度経っていますから、受け付けの時の事をお忘れのお客様も多いです。
ダウンの仕上がり状況に合わせて、もう一度、色ムラや色が付かない部分のこ
とと、これ以降のお取扱いについて確認をしておくと納品後の行き違いを防いで
仕上がりを喜んでいただくことができます。
今日はモノを見ながらそういう話と質疑応答の勉強会でした。ありのままをお客
様に最初に伝えておかないと、いくら色修正がよく出来ていても、とんでもない
苦情をいだくことになりかねません。やはり事前の情報はとっても大切ですからね。
クリーニングを受付するときの事前説明っていかに必要で大切なのか、こんなこと
とからもよくよくご理解いただけると思います。だからこそ、しっかり勉強しておき
ましょう。
明日はもう一度「ダウンとレザーの撥水加工」についてのお勉強です。
今日は僕のお誕生日お祝いモードより一転して、みんな真剣で繊細な
お仕事モードです。本年も頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。
生かしていただいて ありがとうございます。
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